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ロシア内務省が、入国する外国人にロシアへの「忠誠」を求める法案を準備している。ソ連の独裁者スターリンの恐怖体制下でもなかった言論統制法案だ。議会に提案される前に即刻、撤回されねばならない。
ロシアでは来年3月に大統領選挙がある。ウクライナ侵略を「特別軍事作戦」と呼ぶプーチン大統領の政策が、西側諸国の影響によって揺らぐのを阻止することが狙いだろう。言論統制を露国民だけでなく外国人にも広げる試みで、国際社会の反発は必至だ。
国営タス通信によると、対象となるのはロシア国内に一定期間滞在する外国人だ。法案は、ロシア連邦の公的諸機関の活動を妨害し、その当局者の信用を傷つける行為を禁じている。
伝統的価値観に反する情報の拡散も制限する。移民に対しては、結婚を男女の結びつきとみなす価値観に反する考えや、性的少数者に関する情報の拡散を禁じる。
また、第二次大戦でのソ連のドイツに対する勝利への貢献という「歴史的真実」を歪曲(わいきょく)することも禁じる。
タス通信は禁止事項に違反した場合の罰則には触れていないが、プーチン政権はすでに、「非友好的」とみなした、日本を含む西側諸国の特定の国民に対しては「入国禁止」措置をとっている。
侵略戦争に反対する国民や組織はスパイと同義の「外国の代理人」と指定して活動の芽を摘んでいる。直近ではクナーゼ元外務次官や1期目のプーチン政権で首相を務めたカシヤノフ氏が標的となった。
最近は、公園で雪の上に指で「戦争反対」と書いた男性が「10日間の拘留」処分を下された。日増しに強まる言論弾圧は到底容認できない。
今年3月、「ロシアに関して虚偽の内容を含む一連の記事を発信した」としてスパイ容疑で逮捕、起訴された米紙ウォールストリート・ジャーナルの記者も拘束されたままだ。
ロシア政府に「忠誠」を誓う外国人しか入国できなくなれば、外国との自由な交流は大幅に縮小し、ロシアの国際的孤立は一段と深まることになる。
国際的にも前例のないロシアへの「忠誠」法案は、自らの首を絞めるだけだとプーチン政権は知るべきだ。
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2023年12月3日付産経新聞【主張】を転載しています